4月26日(日) 今日も時々雨 大掃除の1日


 今日は昨日ほど気分が悪くなかったので、朝から掃除に取りかかった。まず、台所の掃除。動かせるものを全部動かしてすっきりときれいになった。そこへ則が来て、「死ぬ気か?」と言ったので軽くかわしたが、そういう気持ちもないとは言えない。いかに手術成功の確率が高くても生存率が高くても100%ではないのだから、最悪の場合も考えておく必要があると思っている。それで暗く沈むことはないけれど、そのくらいの覚悟が必要と言うことだ。

 台所が終わると、隣の和室が気になった。無事退院して来てから、もしかしたら誰かお見舞いに来るかも知れない。そう思ったら矢も楯もたまらず、こちらも大掃除を始めた。藤原さんが、そういう人多いのよ、と言って笑っていたが、掃除する人の気持ちがとてもよく分かる。主婦がいるのにこんなに汚いの?とは思われたくないという見栄のようなものか。こちらも見違えるほどきれいになった。といっても、それに比例してゴミ袋の数が増えただけのことなのだが。

 さすがに終わる頃には疲れた。と、そこへタイミング良く則が来て、お茶にしようか、と紅茶を入れてくれた。今までにはないことだ。かなり気を使ってくれているらしい。気を使うと言えば、そのあと私が則のYシャツにアイロンをかけていたら、「いないときのためにやり方を教えてくれ。」と言ってやおらアイロンを手にしたのだ。不器用な手で、それでも懸命にアイロンをかけている則を見て、これが現実にならなければいいのだが、と思う。

 夜、回転寿司でお腹をいっぱいにした後、風呂で頭を洗った。この長い髪を洗えるのは、後何回くらいなのだろう。入院となれば短くしなければならないだろうし、抗ガン剤を使うようになれば半分くらいは抜けてしまうそうだから。切りたいと思ったことも何度もあったが、いざ現実となるともったいない気もする。が、これは何れ回復するものだから、すっぱりとあきらめよう。[96年3月22日撮影の比較的髪の毛が長かった頃の順さん:彼女以外はぼかしてある]
 今日は昨日ほど右乳が痛まなかった。気のせいかしこりが小さくなったような気がする。そんなことあり得ないのに、目が覚めたらすっかりしこりが無くなっていたなんて、考えたりもする。


則裕の記録

 順さんは今日は一日掃除にかかりっきりだ。大体わたしは最低の配偶者で、掃除などもよほどのことがないとしないし、するにしてもほとんど順さんの怒りを和らげる目的でしかない。「お主死ぬ気でいるな」と言うと、「若い女を連れ込んだときにあまりにも汚いとまずいでしょ」と言うお答え。

 私も少しは片付けたが、文字通り少し。実際問題、前提として性格がいい加減なこともあるのだが、ここのところ仕事がメチャ忙しかったのと、結構余分な用とかがあって、あまり片付けた記憶がない。

 余談はそのくらいとして、聖路加国際病院外科の中村清吾氏の『米国における乳癌診療の現状』(http://www.ueda.com/Ueda-6/mamma.html)(1997年10月20日)というレポートを見つけた。これによれば、医療費の抑制という側面もあって米国では入院期間が減少している(1990年→95年で、6.7日→5.8日)。手術翌日にドレンチューブをつけたままの退院が一般化しているという驚くべき報告。在宅療養が無料と言うはずはないのだから、この合理性が直ちに喜べるもの名のかどうかは別としても、リスクの少ない手術となっている印象を受ける。米国では8人に1人(日本では25〜30人に一人)という乳癌患者がある米国での実状を直ちに横引きには出来ないだろうけれども、それでも1ベットあたりの職員数が米国は日本の3倍程度という数字には羨ましさを感じる。勿論こうした手厚い看護体制に伴う国民医療費の増大をどう見るかという側面も考慮しなければ、ただ羨ましがっているだけ視点は問題だが。

 また現在では化学療法(抗ガン剤投与と考えて良いだろう)が先行する場合があるとも記載されている。K医師の説明、ひょっとしたら抗ガン剤を手術に先行して行い患部をより小さくしてから手術をするかも知れない、という話とも一致する。この点でも、米国を先進国と見るならば、より理想の姿を追求している共見ることが出来るかも知れない。 この中でコンピュータ小僧のわたしにとって興味深かったのは、本がほとんどCD−ROM化されていることだ。医療現場にも確実にコンピュータ化の波は来ている感じだ。

 藤原さんに何度か電話していたが、6時前にようやくかかる。彼女も忙しい人だ。順さんが応対した。まず、送ってくれた本のお礼。順さんの言によれば、藤原さんもまだまだ1月くらい先の話しだろうと思っていたらしい。私は順さんに2つほど聞くように、彼女が電話している脇でメモを渡した。一つはどれくらい放射線を照射するのかという質問。この答えは、連続25回ということで、K医師の著作通りの回答だった。二つ目の質問は抗ガン剤についてであったが、藤原さんは当時65才を過ぎていたので、抗ガン剤投与は見送られたそうだ。病気欠勤は最大180日とれる。これは有給(通勤手当はカット対象だだが)で、この中で回復まで出来れば勝負したい。それも先の事情があるから、出来るだけ短いものとしたい。

 それからこれは私の趣味でもあるのだけれど、順さんはかつては結構髪が長かった。どのくらいかというと、優にお尻の位置を越えていた。年々細くなるし、彼女も長いのがうっとうしく、少しずつ短くなって、今ではそうは長くないし毛の量も減ったが、特に低学年の児童にとっては、彼女の髪の毛は格好の遊び道具になっていた。事実、今5年を担任しているが、実はその子ども達は1・2年の時も持っており、その当時はやったアニメから、彼女はラーメンマンと呼ばれているくらいだ。[98年4月29日撮影:現在はかなり毛の量が少ないことが分かる]